医師は起訴されてしまった。これから裁判が始まるであろう。

　ご遺族には大変つらいことだと思う。しかし、医療には限界もあるのだ。

　いろいろな情報を元にすると、医師のしたことは「限りなく白に近い灰色」といえる。私は新生児科医として分娩に立ち会ったことは何度もある。しかし癒着胎盤を経験したことはない。産科の先生に聞いても、癒着胎盤を経験していない人が多い。

　このケースで民事で争うのは十分想定できる。しかし、刑事事件として扱われると非常にまずい。もちろん逮捕された医師が、悪意あるいは確実な黒ならば話は別であるが。

　医療は時として不幸な転機を迎えることもある。明らかに医師側のミスというのもあるし、まったく落ち度がない場合も時としてある。しかしそれ以上に、判断がつきにくい「灰色」というケースのほうが多い。黒で逮捕されるのは仕方がないし、逮捕されるべきだと思う。しかし、白や灰色で逮捕されれば、医者としてはたまらない。

　誰だって、逮捕される可能性がある行為をするわけにはいかない。「逮捕されてもいいから、治療をしたい」という医師はどのくらいいるのであろう。

　これは仮のお話（専門分野ではないので、多少の間違いはご容赦ください）

　QQ車「○○救急隊です。27歳妊婦。児は34週。母は多量に出血していて、腹痛を訴えています。子宮口は5cm開いています」

　産科医「私はこの病院で一人医長です。10年以上産婦人科医をしていますが、癒着胎盤は直接体験したことはありません。MRIをとらない限り、癒着胎盤は私には診断できませんが、今すぐMRIは撮れません。輸血も10単位なら用意できますが、それ以上用意するのは時間がかかります。そのような状況下で患者様に不具合があれば、私が刑事訴訟を受ける可能性があります。潜在的に刑事訴訟を受ける可能性があるのに、治療を行うわけにはいきません。ここ近辺のすべての病院の産科は、あの事件以降閉鎖されています。100km先に大学病院があるので、そちらに移送してください」

　小児科ではどうであろう？痙攣重積、化膿性髄膜炎、腸重積、、、小児科医の誰もが病院で見たことはあるだろう？しかし、実際プライマリ医として外来で全例一発で診断した人は、何人いるであろう？それで、100%治せる自信があるという人はどのくらいいるであろう？

　この件については、また書きたい。