母乳と薬剤の関係は、

１．薬剤の特性
２．児の特性
３．母親の特性

が絡み合っている。薬のすべてが危ないというわけではない。

　日本の医薬品添付文章で母乳に関する記載は、お粗末としか言いようがない。

　一番安全とされる表記は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にだけ投与する」である。処方するのに勇気が要る。

　「投与中は授乳を避けさせる」「中止する」がなんと76.6％だ。その理由は「動物乳汁へ移行するので」ということだ。
　移行するといっても、すべての薬が母親の血液から濃縮されて母乳に移行するわけではない。薄められる薬剤もある。また、児の特性、つまり児の生体内利用率および児のクリアランスにも影響される。

　動物実験の80%がラットということだが、ラットの乳汁たんぱく質はヒトの11.8倍、脂肪が3.9倍という。人間と単純には比較できない。

　日本というのはつくづく、「0%の失敗を目指す」国なのだと思う。リスクゼロ探求症候群だ。

　日本のはだめなので、アメリカ小児科学会とWHOのガイドラインを参照してみよう（BSEに関しては「0%の失敗を目指す」方がいいかもしれないが、アメリカの「100%の成功を目指す」姿勢は評価してもいいと思う）。

http://aappolicy.aappublications.org/cgi/content/abstract/pediatrics;115/2/496
（セミコロンがあるせいか、うまくリンクが張れない）
http://www.who.int/child-adolescent-health/publications/NUTRITION/BF_MM.htm

　これらを読むと、母乳禁忌の薬は意外に少ないのが分かる。一部の抗癌剤（免疫抑制剤を含む）と放射性物質くらいだ。そのほかは、使用しても安全な薬、注意をして使用する薬に分けられる。

　抗生剤であるクロラムフェニコールやテトラサイクリン（ミノマイシン）は、可能なら別の薬を使用したほうがいい、ということだ。ジスロマックは通常の量ならば問題はない。

　最近、母乳とジスロマックの検索でこられる方が多いので、書いておく。

追記

　成育医療センターで「妊娠と薬情報センター」というのがある。2006年4月17日現在のところは、地域は東京都・神奈川県に限られている（これでもかなり拡大した）ことと、授乳上の薬剤使用に関する相談は受け付けていないということだ。