こんな当たり前のことが、出来ない。上司や弁護士から「この医療事故については、絶対謝ってはいけない」と言われるらしい。私は弁護士からはまだ言われたことはない。謝ると責任を認めたことになるからだという。

　謝った場合、一応納得してくれる人と、「それみたことか、罪を認めたじゃないか」と高圧的になる人がいる。また、謝らないと、「何かあるのではないか」と不信感を募らせる人がいる。

　個人的には、謝罪というのは政治的な一面があると思う。互いに「ここまで」という線引きが必要だ。そうしないと、謝罪された側はいつまでたっても謝罪された気になれないし、謝罪した側はなかなか謝罪した気になれない。
　もちろん、これには異論反論などあるだろう。たしかに、「ゴメンですむなら警察はいらない」という感情的な面があるのも認める。しかし、政治的な面もあるということなのだ。

　「・・・事故後の説明や謝罪のガイドラインを作成することは、信頼・納得できる医療作りの重要な柱の一つであると思います。」と「医療事故―なぜ起こるのか、どうすれば防げるのか」という本に書かれている。作者の専門は臨床社会心理学であり、その視点から書かれている。ためになった本だ。

　医療事故は、一人だけでおきるものではない。医療事故は、原因を責めるだけでなくすことは出来ない。

　この本を最初に読んだのは2000年頃。単行本だった。その後しばらくして、作者（山内隆久氏）は白血病で倒れ亡くなった。2005年には同名の本が文庫本で出された。文庫本には入院時の闘病記も書かれている。