少し古い小児科医ならば、麻疹でいやな思いを何度かしただろう。麻疹肺炎でも大変な思いをした。麻疹脳炎になったお子さんは、今でもリハビリを続けている。親は「はしかで脳炎になるなんてありえない。これは医療ミスだ。」と怒っていた。

　私は、「え？」と思う年で風疹になった。先天性風疹症候群の「当事者／加害者」になりやしないかと、ひやひやした。風疹脳炎で亡くなった人もいるのだ。

　SSPEや先天性風疹症候群（CRS）の件はどうだろう？これについては、コメントを差し控えたい。実際に診察したか、受け持ったかどうか、ということも差し控えたい。というのは、SSPEやCRSは決して多い数ではない。私がコメントすると、その人たちが同定されて迷惑をかける可能性がある。

　SSPE、CRSについてはそれぞれこちらをごらんいただきたい。

http://sspe-aozora.hp.infoseek.co.jp/

http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_21/k02_21.html
http://www5d.biglobe.ne.jp/~kani1120/

（4/10タイトルを「小児上気道炎に対する抗菌薬適正使用ガイドライン」から「小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン」へ変更）

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http://www004.upp.so-net.ne.jp/ped-GL/GL1.htm

　ガイドラインは金科玉条のものではないし、永遠に正しいものではない。

　このガイドラインを正しく行うには、

１．医療機関フリーアクセスが24時間可能であること
２．大学病院などの基幹病院への対応が24時間可能であること
３．検査も24時間可能であること
４．保護者が子供の状態をよく観察できる環境にあること
５．医療サイド－患者（保護者）の信頼関係が良好に保たれていること

　これらの条件が必要だ。もっといろいろあるかもしれない。

　逆に言えば、上に上げた条件から外れた場合は、ガイドラインを守るのが難しくなる。

１．　親が共働きで、日中は何もわからないおばあちゃんが見ている場合。
２．　昼間に「上気道炎には抗生剤は要りません」と説明を受けた。夜も熱が続いているため、抗生剤をもらいに一見の救急病院に駆けつけた場合。

　臨床とはなかなか上手くいかないものだ。

　あと、Hibワクチンの導入を速くしてもらいたい。インフルエンザ桿菌の髄膜炎の初期症状は誰にもわからない。ガイドラインでも見つけることが難しい。

　免疫とは、曖昧で冗長だ。古い本になってしまったが「免疫の意味論」を読んでみるとわかる。

　外部からウイルスや細菌などが入ると、免疫ができて記憶される。その期間は短いものもあるが、麻疹などは終生免疫と考えられてきた。つまり、一度かかると再び感染することはない。一生に一度の、いのちさだめだった。ワクチンも、生ワクチンであれば終生免疫が得られると思われていた。

　しかし、そうではなかった。

　麻疹ワクチンをしても、麻疹にかかる人が出てきた。また、麻疹にかかっても、実は感染（実際は症状の出ない不顕性感染）を繰り返して「終生免疫」を維持しているのがわかってきた。いずれも、野生株の自然感染（ブースター）が少なくなって分かったことだ。
http://www2.eisai.co.jp/clinician/cl_05_540/cl_05_540_21.htm

　百日咳だと、もっと事情は深刻だ。百日咳も終生免疫ではない。ワクチンを打っても自然感染をしても、しばらくすると免疫能が落ちてくる。百日咳は子供の病気だと思われていたが、思春期や成人にも感染する。

　百日咳は、以下の理由で深刻だ。

１．再感染やワクチン接種後の感染の場合、または大人での初感染の場合、典型的な百日咳の症状を呈することは少なく、診断は難しい。
２．普通の感染の場合胎盤からの免疫があり生後数ヶ月は母親からの免疫（移行免疫）があるが、百日咳の場合だとあやふや。
３．そのため赤ちゃん（自らの子供）に、百日咳をうつさせる危険性がある。
４．赤ちゃんの百日咳は、命にかかわる。

　２．についてはもう少し補足が必要だ。ワクチン経由の移行免疫は望めない。自然感染でも「よく注意すれば」移行免疫が認められると書いている教科書もある。しかし、母親が百日咳の治療で抗生剤を使用すれば移行免疫は低くなるし、感染から妊娠までの期間が長ければ移行免疫の恩恵は望めない。当てにはできない。

　対策はどのようにすればいいだろう？

　予防接種をあえて手控えて自然感染の流行を容認し、ブースターを「人工的に」つくるか。予防接種の接種機会を増やして、自然発生自体を抑えるのか。どちらが社会的に無理が無いか？

　公衆衛生学的に考えれば前者のほうが無理があるだろう。しかし、ワクチンの副反応ばかりを強調する世の中では、どうだろう？

　麻疹ワクチンの二度打ちや成人での百日咳ワクチンは、アメリカだけで行われているわけではない。日本のワクチン政策のほうが、世界的に見れば遅れている。成人の百日咳ワクチン接種は、アメリカだけで行われているのではない。

　公式な文章に載ったので、発言する。

http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/JEVMeeting.htm

2006年、日本脳炎患者が高知県1名、熊本県で2名発生しました。熊本県の患者2例のうち1例の患者は、3歳6ヶ月の小児で山鹿市内に在住、9月10日に発病し10月6日現在も入院中です。入院初期の日本脳炎抗体価は陰性であったがその後HI抗体価320倍まで上昇し、日本脳炎と診断が確定した。就学前の日本脳炎患者が報告されたのは、平成２年以来。

　個人的な患者情報をかけないもどかしさがあるが、児は日本脳炎ワクチンをしていなかったとのこと。

　まずは取り急ぎご連絡まで。

以前日本脳炎について書いたコメントをリンクする。
http://pedia.blog.shinobi.jp/Entry/86/

　最近マイコプラズマ肺炎が多い。実際に過去よりも多いが、国立感染症研究所のデータをみても突出している。
　マイコプラズマの特徴として、

１．ペニシリンやセフェム系の抗生剤は効かない。「抗生剤の多用による耐性」ではなくマイコプラズマの構造上効かない。効くのは小児ではマクロライド（クラリス・エリスロシン・ジスロマック・・・・）およびミノマイシンなどだ。しかし、マクロライドでは耐性化の問題もある。
２．自然と治ることもある。抗生剤を使わなくても自然治癒することもあるし、難治性もある。個人差が多い。おそらくは、マイコプラズマと宿主（人間）と抗生剤との因子が関わりあっているのだと思う。
３．肺炎以外にも、中耳炎・腎炎・発疹・筋炎・・・など、多彩な症状を呈することがある。

　そのほかいろいろとある。

　しかし、どうして増えたのだろう？以前は「オリンピック肺炎」といわれ、人の行き来が国際的に増加するときに流行するといわれた（マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」と言われている）。しかし最近はこうした流行を取らなくなった。最近増えた理由はいくつかあるが「医原性」というのもあると思う。

１．多くの医師がマイコプラズマを意識するようになり、潜在的な（以前からあった）マイコプラズマ肺炎を精確に診断するようになった。これは「百日咳」でも同じことが言える。
２．診断にマイコプラズマIgMの迅速検査を使用している施設が多くなった。抗マイコプラズマIgM抗体は感染すると上昇するが、治癒後も比較的長く（数ヶ月）検出されることがある。検査で検出されても、それが数ヶ月前の感染である可能性があるのだ。
　検査には偽陽性や偽陰性もある。これを理解して検査結果を解釈しなければならない。

　マイコプラズマ肺炎と同じような感染症で、肺炎クラミジア・hMPV（ヒトメタニューもウイルス）による肺炎というのもある。こちらも将来「流行」してくるだろう。